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密かに甘噛み 6

Author: 玄糸雨楽
last update Last Updated: 2025-05-09 16:20:40
セツ君にとって、私はどういう存在?

何でも打ち明けられる仲のいい同級生で居たいのに。

この微妙な壁を壊したいけど、正解が見つからないからどうしようもなく、再びセツ君をじっと見るしかない。

「花ちゃん、そんなに見ないで。可愛いすぎる」

可愛いって⋯⋯セツ君には私がどう映ってるんだろう。

きっと、愛らしくて素敵な大人の女性として美化されてるかもしれない。

実際の私は、そうじゃない。

私はいたって普通のOLで、普段は忙しく仕事をしてる。

容姿だって、メイクしたって冴えない顔だし。体型も、モデルみたいにすらっとしてない。

それなのに、カッコいい男性に特別扱いされてしまう私。

⋯⋯どう考えたって普通じゃない。

今のセツ君をどうも好きになれない自分が居ることに気づいてしまった。

どうしよう。セツ君の気持ちに対して申し訳ない。

でもでも、気持ちがないなら断るべきだよね。

怒ってしまうかな。

だって好きじゃないのに好きなフリなんてできないよ。

うう、どうしよう。いや、はっきり言おう。

「セツ君。あのね、私⋯⋯セツ君を好きになれない、気がする」

セツ君の顔を見て真剣に言おうとしたら、悲しませるのが怖くなって、つい曖昧な言葉になってしまった。

それでも、ごめんなさいと続けようとした。

「そっか。僕は、花ちゃんに好きになってもらいたいな」

私に本気なのは凄く分かる。

真っ直ぐな気持ちでストレートに好きと伝えてくれるから。

なのに⋯⋯どうも今のセツ君は好きになれない。

プレゼントを女性に贈るのを、さらっとできるセツ君はかっこよすぎる。素敵な人。

完璧すぎる男性って感じ。

ルックスだって派手すぎずスマートだし、気遣いだって自然に出来る。

だからだ。完璧すぎるから、好きになれない。

その完璧さは、自分に自信のない私を浮き彫りにさせる。それが悩ましく、ひたすら悲しい気持ちにさせる。

背伸びしたって、きっとセツ君の隣には居られるはずない。私よりも、もっと素敵な人に愛されるべき。

プレゼントも、好きという言葉も私にはもったいない。

私みたいな、平凡な人間にはセツ君の気持ちは、重すぎる。

そう思ってしまう私は、なんて嫌な女だろう。
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